7月からのHello Myokoは、卒業生シリーズです。卒業生から在校生へ地域の人へ、妙高をテーマにしたエッセイです。今回は2015年卒業の松橋和也(まつはし かずや)さんです。現役「美大学生」らしく高原中生徒さんへ作品から楽にしてくれるヒントを紹介してくれます。
〜楽にしてくれるかもしれない〜 松橋 和也(2015年卒業)
はじめまして。卒業生の松橋和也といいます。赤倉温泉には「岡倉天心六角堂」という場所があるのを知っていますか?「岡倉天心」という人は、本当の名前は「岡倉覚三」といって、明治時代に日本の美術の世界に大きな影響を残した人です。僕はその人がつくった東京藝術大学(当時の名前は東京美術学校)で芸術の勉強をしています。
今回は、僕自身のことや妙高高原についてではなく、しんどい学校生活を少しだけ楽にしてくれる(かもしれない)作品をいくつか紹介したいと思います。
1.「はちどり」監督・脚本:キム・ボラ
韓国の映画です。ウニという14才の少女が抱える苦しさや生きづらさが丁寧に拾われていて、それらは無かったことにされずに、この映画の中で克明に記されています。たとえ特別な事情を持った人でなくとも、私たちの生きるありふれた日常には、息のできなくなるような瞬間が多くあるはずです。また、その苦しさの多くは自分にはどうしようもないことのように思えたり、しょうがないから我慢しておこうと諦めるしかないことだったりします。
映画の中で、ヨンジ先生という漢文塾の先生が登場するのですが、ヨンジ先生はウニに「立ち向かっていいんだよ」と教えてくれます。社会のおかしな規範やルールには立ち向かっていい。この映画は90年代の韓国が舞台で、家父長制や男尊女卑の激しい社会が描かれていますが、それらは国や時代を問わず、今の私たちにも「立ち向かっていい」と改めて言葉を投げかけてくれていると僕は感じました。
2. 「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」大前粟生
小説です。大学のめいぐるみサークル、通称「ぬいサー」に入っている男の子の話です。
話自体は大学が舞台になっているのですが、主人公が中高の自分を振り返る場面がしばしばあります。学校という場所特有のノリや空気、それに上手く乗れない人や、乗っているけど本当はしんどい人に是非読んでほしいです。
以下一部引用します。
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むかしのことを思い出すと苦いもので胸がはじけそうになる。こわかったからわらってたのかなって、いまは思う。学校の中にぎゅっと詰め込まれた社会みたいなものが。それに加担している自分のことが。
でも、当時はその自分として楽しかった。(中略)その楽しさのなかに、苦いものがたくさん混ざっていることに呆然とする。流されるままにその自分は、自分たちじゃないものを笑ってきた。
そのことを十九歳の七森は後悔することができる。
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優しさゆえに傷ついてしまうことがあっても「それでいいよ」とそっと肯定してくれるような言葉が並んでいます。
3.「スキップとローファー」高松美咲
この漫画は高校のお話です。石川県の田舎から東京の進学校へ通うため上京してきたミツミという少女が主人公で、彼女の高校生活がコミカルかつハートウォーミングに描かれます。
尊いシーンがたくさんあって、なんども読み返しては元気づけられる。日々のコミュニケーションの中で起こる小さな感動を思い出すことができる作品です。
中学生のみなさんは、高原中を卒業して高校へ進学する春に読むと、すこぶるシンパシー感じられると思います!
はい。という感じで、しんどい学校生活を少しだけ楽にしてくれる(かもしれない)作品を3つ紹介しました。学校って逃げ場のない場所だなあと思うので、今自分の居場所がないと感じたら、本や映画の中に、自分の居られる場所を見つけてみるのも方法のひとつだと思います。そういうふうにして、文化を生きるためにうまく使ってきた人は沢山いると思いますし、その人たちが残してくれた場所を見つけていくのは意外と楽しい気がします。
「後記」
現在、東京藝術大学4回生の和也さん、卒業制作に没頭している日々だそうです。今冬には妙高赤倉へ戻る予定なので、美術の世界のこと聞いてみてはいかがですか!
次回は高橋大成さんが繋いでくれた卒業生のマラソンランナー山﨑奈央さんのインタビュー形式「Hello Myoko」です。お楽しみに。卒業生のエッセイ投稿大募集中。 myokokogen.jhs@gmail.comまでご一報ください。
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